いりまめ 『めもりい』

気になることがあったらどんどん書いていこうかと思っています。 アニメ・ゲームなどの軽いものから、 政治・ニュースなどの重いものまで何でも書きます。

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虫食い穴

この小説は、ちょっぴりグロテスクかもしれません。
食事時などは避けてお読みになる事をお勧めいたします。


「あー!」
一人の男が、とある家の一室で叫び声をあげた。
男の手には、高級なシャツがあった。
「ちっくしょお・・・今日の合コンに着て行こうと思ったのに」
男の持っているシャツには小さな穴、虫食い穴が出来ていた。
「くそっ!効きやしねぇじゃねぇか!」
そう言って、置いてあった虫よけグッズを投げ捨てる。
カンッと言う音とともに、それは地面に転がった。
しゃーないか、と男はつぶやくと、別のシャツを着て男は出かけた。

この日はまさに散々だった。

モテないのはもちろん、いつの間にか幹事のように扱われ、
2次会3次会の予約を取らされ、
挙句の果てには、お気に入りのズボンに、飲み物をひっかけられた。

疲れ果てて、男は家に帰ってくると、すぐに寝てしまった。

どのくらい寝たのか分からないが、玄関のチャイムが鳴る音で、男は目覚めた。
ふらふらと起き上がり、玄関に向かうと、覗き穴から外を見る。

そこには、一人の女性が立っていた。

その女性は、とても不思議な女性だった。

背は170センチより少し大きいくらいで、スタイルが良く、
年齢は、20歳中盤に見える。
しかし、30代の成熟した妖艶さも、10代のあどけなさも持った、
とても不思議な女性だった。
ただ一つ言える事は、その女性がとても美しい事だ。
世の中の男全てはもちろん、女性でさえ見惚れてしまいそうな、
それでいて、どこか、恐ろしさまで感じるほどの、美しい女性だった。

気がつくと、男は扉を開けていた。
嗅いだ事の無いような、良い香りが、女性から漂ってきた。

「すいません、私、こういうものでして・・・」
不意に、女性が名刺を際しだしてきた。
男はあわてて受け取り、それに目をやる。
「宇壺製薬・・・?」
男は、聞いた事の無い会社だな・・・と思った。
「新興企業でして・・・」
女は、その考えを読み取ったかのように答える。
「それで、本日は、試供品をお試しいただきたく、お伺いいたしました。」
そう言って、女がとりだしたのは、小さなビニール袋。
よく見ると、その中にゴマ粒ほどの、黒い小さな丸いシールが入っている。
「これは・・・何ですか?」
「これは、食虫剤です。」
「しょくちゅうざい・・・?防虫剤じゃなくて?」
その質問に、女は、はい、と言ってから続けた。
「このシールを、地面に貼りますと、そこに虫が寄って行き、このシールの中に消えていくのです。」
そんな馬鹿な話があるか、と、男は思った。
これをもらった所で、後で何かふっかけられるか、
変な宗教に入信させられるかだろう。
そう思い、男は断ろうとした。
その時、ふわっと、良い香りがした。
さっきまで、断ろうとしていた心は、急に小さくなり、
その代わりに、今朝の事が思い出された。
大切な服の虫食い穴を・・・。

気がつくと、男は自分に部屋にいた。
その手に、小さなビニール袋を持って。


それから数日がたった。

部屋の掃除をしていると、ふと、一つのビニール袋が目にとまった。
「食虫剤って、言ってたっけな・・・。」
男は、それを手に取り、しばらく考えていたが、
まあ、使ってみるくらいいいだろうと、その袋を開けた。
中のシールを手に取ってみると、本当に小さい。
ゴマ粒ほどと言ったが、それよりも小さいかもしれない。
男は、あの女性に言われたとおりに、どこか地面に貼る事にした。

あたりを見渡すと、部屋の隅のスペースが目に入った。
特に何を置いているわけでもなく、ちょうど“空き地”になっていたので、
ちょうどいいと、そこにシールを張り付けた。

虫が寄ってくると言っていたが、どうなのだろう?
と、しばらくそこを見ていたが、そこで、ある事に気がついた。
そう、こんな小さな点に収まるのは、ダニかノミ程度の物。
つまり、パッと見て解るものではない。
そういうことか、と男は思った。
やっぱり騙されたと、自嘲すると、
掃除を再開したのだった。

それから数日、男が部屋でくつろいでいたとき、不意に、あの黒いシールが目に入った。
最初は、目の錯覚だと思った。
しかし、よく見れば見るほど、その疑念が確信に変わった。
シールが大きくなっている。
ゴマ粒ほどだったシールは、いつの間にか、親指の先ほどの大きさになっている。
そして、その周囲に、おぞましいものがあった。
小さなクモや羽虫などが、群れをなしてそのシールに群がっているのだ。
男は、自分が吐き気を催している事に気がついた。
それほど、気色の悪いものだったのだ。

よく見ると、群がっている虫たちは、次々とシールの中に落ちて行っていた。
まるで、そこに穴があるかのように、次から次へと落ちて行く。

いつの間にか、男はそれに見入っていた。

その時、電話が鳴った。
見た事の無い番号だったが、男は、何のためらいもなくその電話に出た。

電話をかけてきたのは、あの女だった。

「もしもし、宇壺製薬の○○でございます。」
男は、軽く挨拶をすると、相手の返事を待たぬまま、今見た事を話した。
「なるほど、効果がよく出ているようですね」
女は、至極冷静に答えた。
女によると、これが“正常”な働きらしい。
「ただ・・・」と、女は続けた。
「あまり、長期間続けてしまいますと、大変なことになりますので、お気をつけ下さい」
「大変なこと?」と、男は聞き返すが、
「それでは、失礼いたします」と、女は一方的に電話を切ってしまった。
男は、その穴に目をやる。
そこには虫が群がり、とても触れる気にはなれなかった。

それから数日が経った。

穴は、更に大きくなり、握りこぶしよりも大きくなっていた。

穴が大きくなると、入る虫も大きくなる。
今は、ゴキブリやハチ、そして、ネズミまでもが群がっていた。
それを、男は眺めていた。

人間には、慣れと言う物がある。
男も、この光景にすっかり慣れてしまっていた。
なら、シールを剥がすこともできそうだが、それは出来なかった。
なぜなら、そこには、大きなスズメバチなども大量に群がっていたからだ。
いま、ここでシールを剥がし、その効能が無くなれば、
大量のハチが、自分に襲いかかってくることも考えられる。
そうなれば、下手をすれば死ぬ可能性すらある。
このシールは、一定の範囲の虫などを寄せ付けるようなので、
近辺のハチが掃討されたときにでも、剥がせばいいかなぁ・・・などと考えていた。
そして、女の言った、「大変なこと」と言うのも、
きっとこの事なのだと、自己解釈していたのだった。

それからまた数日、穴は、赤子が一人、丸々入れるほどになっていた。

男は、起床と共に、外の空気を取り入れるため、窓を開けようとした。
窓を開ければ、穴に向かって、虫がなだれ込んでくるが、
男はそれにすっかり慣れ切っていたのである。
窓を開けると、虫ではない物が入り込んできた。
野良イヌや野良ネコだ。
よく見れば、首輪をしている犬や猫もいる。

男は、一瞬、何が起こったのか分からなかったが、
フラフラと歩く動物たちの向かう先を見て、どこに向かっているのか分かった。

・・・あの食虫剤だ。

慣れていた男だが、さすがにこれには恐怖した。
穴に落ちるのは害虫だけじゃないのか?
確かに、ネズミも寄っていたが、あれも害獣の一種。
ここにいる野良ネコや野良イヌも、害獣として見ることもできるが、
首輪を付けているのは、どう見ても、どこかの愛玩動物だ。
男は、恐怖した。

それからまた数日がたった。

男は、部屋で、虫と動物が、穴に落ちて行くのを見ていた。
人間は、残虐な生き物だ。
理科の解剖で、最初は可哀想だと思っていても、
最後には、それが楽しくてたまらなくなっていたという経験は無いだろうか?
いま、男は、この光景を見るのが、何よりの楽しみとなっていた。

動物や虫が落ちて行く穴は、
もうすでに、大型車のタイヤよりも大きくなっていた。

動物たちが、落ちて行くのを、男は、じっと見ている・・・。

すると、動物たちの数が減ってきた。
そして、部屋には、虫一匹、動物一匹、いなくなっていた。

それでも、男は穴を見ていた。

ふわっと、良い香りが漂ってきた。
どこかで嗅いだような、良い香りが。

男は、その香りに誘われるように立ち上がると、
ゆっくりと、歩き出した。
ふらふらと、一歩ずつ。

そして、男は、穴の前に立つと・・・。

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